プジョーと言えば「猫足」って言葉がよく出てきます。
この「猫足」とはいったい何なんでしょうか?
簡単に言うと、2階から猫が飛び降りた時のストッと降りた時のような衝撃をやわらかく吸収し、猫の逃げ足の速さ(コーナーでの安定感)も併せ持つってことでしょうか?
今回は、この猫足の秘密についてPCJの 旧My Peugeotの記事をもとにご紹介いたします。
◎ 猫足の秘密を探る
しなやかなコーナーリング性能と快適な乗り心地を両立させたプジョーの足回りを「猫足」という言葉で専門雑誌などでよく表現されています。
そもそも、この「猫足」と言われるこの言葉は、フランス本国では使用されていません。この言葉を作ったのは、80年代のプジョー車を日本人のカージャーナリストがインプレッションした時に語った言葉が語源になっているようです。サスペンションが大きくストロークしたときでも安定して路面をつかむ特性やコーナーの出口での安定した挙動を見せるといったプジョーの特性を的確に表現した言葉であると思います。
この猫足が生まれた理由としては、フランスの環境によるものが大きいと思います。同じヨーロッパでも、ドイツ車はフラットでコーナーをあまりロールすることなく曲がるようにセッティングされているようです。しかし、プジョーを含め、ほとんどのフランス車は全体的に柔らかなセッティングとなっており、コーナーでは適度にロールします。極端に言うと、ドイツはアウトバーンで代表出来るように、しっかりと舗装された道を!フランスでは石畳などでこぼこした路面が多く、馬力で税金もかかっていた為、非力なエンジンを搭載していた為、そんな道をスピードを落とさないで曲がる車を!ってことで、それぞれのセッティングの違いは、文化・歴史・環境の違いが大きな理由として挙げられます。
コーナーリング時、タイヤにかかる横G(図中Ft)はロアアームをボディ方向に押し込むように伝わり、(図中Thrust)、その作用として2本のアッパーアームは外側に引っ張られる(図中Tractive forces)。2本のアッパーアームは、フロント側が伸びにくく、リア側が伸びやすく設計されているため、アライメントはGに応じて自然にトーイン方向を向くことになる。
しかし!プジョーの足まわりは、単にソフトなだけでなく、スムーズなコーナリング性能、そしてスポーツ走行も楽しめるポテンシャルを持っています。この性能を引き出すカギは、多くの車種においてサスペンションまで内製しているということになるでしょう。つまり、その設計の早い段階において、サスペンションの特性を合わせることができるのです。
ここ数年の開発スケジュールに沿ってご紹介しますと、最初にクルマの安全性能、つまりユーロNCAPを満たす骨格作りを行います。そして、その設計に伴い、サスペンションの特性が煮詰められます。しかし、一般のサプライヤーからサスペンションを購入する場合は、骨格とサスペンションの設計は別々となってしまいます。メーカーは、その中から希望の特性に一番近いものを選択します。したがって、プジョーと一般的なメーカーとの差は、骨格の特性に合わせてサスペンションの最適なパーツを作り上げていくプジョーとは、このコダワリから生まれてくるのです。また、プジョーのサスペンションは非常に高いこだわりとなって製品が生み出されています。
多くのプジョー車は、サスペンションパーツがグレードやボディー形状、ドア数によって個別に指定されています。つまり、形状上は同じ構造でもそれぞれのクルマの重心位置やキャラクターによって、ダンパーの減衰力やスプリングの定数が違うということはご存じでしたか?スタビライザーも、ミリ単位で複数のパーツが用意されています。同じシリーズでもそのバリエーションは30から50にもなります。ですので、形状が同じであっても他のグレードのパーツを流用すると「猫足」の快適性が損なわれることになるのです。
最適なマッチングを求めて内製していることだけが、猫足をつくっているという訳ではありません。プジョーの猫足には、リアサスペンションにも秘密があるのです。そう!ハンドル操作に呼応する、ロールしながらスルッとノーズがイン方向に向くあの感覚です。
2本のアッパーアームは、その取付方法にも工夫がなされています。コーナーリング時にサスペンションが沈み込むと、アーム取付位置と角度の差によってフロント側のアッパーアームがタイヤをボディ側に誘導するように動き、トーイン方向にタイヤを動かします。現在のプジョー車のリアサスペンション形式はいくつかありますが、共通しているのは“縮み側でトーインが強くなる”ということです。クルマのホイールアライメントは直進性を保つため、ややトーインに設定(上から見たとき、わずかに“ハの字”になっている)されているのが一般的です。しかし、プジョーは、サスペンションが縮んだときにこの“ハの字”が強くなります。FF車では、前輪が駆動とかじ取りの両方をつかさどります。その為、後輪はぶら下がっているだけと考えるメーカーもあるようです。しかし、プジョーはその後輪が乗り味にどう影響するかを考察しているのです。
コーナーリング時には、外側のサスペンションが縮み方向に動きますが、この時トーインが強くなります。つまり!前輪がクルマのノーズを内側に導くと同時に、後輪は4WSの同位相モードのように、ボディーそのものをコーナーリングラインに乗せる働きをしているのです。これが、ゆるやかにロールしながら心地よく曲がる!まさに「猫足」の秘密と言えるのです。ただし、単に後輪をトーイン側に動かすだけでは、挙動や乗り心地に違和感が発生する恐れもありますね。ですので、プジョーは、グレードごとに最適のパーツやセッティングを行っているのです。こうした積み重ねから生まれる、プジョーが理想とする弱アンダーの特性を演出しているのです。
後輪のトーイン/トーアウトがクルマの挙動にどのような影響を与えるかを示した模式図。トーアウトでは、トーが中立の場合のコーナーリング中心点(CENTRE OF ROTATION)が、回転半径を小さくする方向(CENTRE OF ROTQTION WITH TOE-OUT)に移動する為(CENTRE POINT WITH TOE-IN)する為、アンダーステアが出てハンドルを切り足すようなシーンでも安定した挙動を実現するのです。。
プジョー伝統の“猫足”も、時代の要請で少しずつ変化を続けています。
これまでの“猫足”が、職人芸的な工夫による演出だとすれば、今後の“猫足”はデジタル的な要素を採り入れたものになっていきます。それでもプジョーらしさを残しながら。現行モデルでも、トラクションコントロール(ASR)のセッティングなどにその傾向を強く感じます。ドイツ車ではトラクションコントロールの介入があきらかにわかりますが、プジョーはドライバーが気づくか気づかないかの領域でジワリと効くようにセッティングされています。多数のセンサーからの情報を分析し、そのドライバーがスポーツ走行をしているのか、車両が本当にスピンしているのかが判断でき制御できるのです。また、デジタルデバイスを使っても、“味付け”というアナログな部分は長年積み重ねたノウハウがモノを言います。今後さらにグローバル化が進展しても、“プジョーらしさ”は時代の要請を採り入れつつ受け継がれていくと思います。なぜなら、プジョーのクルマづくりのバックボーンにあるのが、“運転していて楽しい”“乗り心地がいい”という、ドライブそのものを楽しめるクルマという思想ですから。
進化を続けるプジョーの“猫足”に、ぜひ今後も注目してください。
参考:PCJ MY Peugeot 記事を参考にさせて頂きました。